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[パチンコ業界]
第4のパチンコカード会社、警察庁の圧力で足踏み
偽造に強くてコストもや安い。そんな結構づくめのPC会社が、参入できずに足踏みを余儀なくされている。既存のPC会社の利権独占を守ろうとする警察庁の思惑か。


話が長くて複雑なので、始めに要約しておこう。ある会社が設立はしたものの、警察の圧力で商売を始めることができず、立ち往生している、という話だ。

当事者は二人いる。片や、第四のパチンコプリペイドカード(PC)会社「日本アミューズメントシステム」(NAS)。三菱商事、三井物産、住友商事が設立した現行PC三社を追いかけ、丸紅・伊藤忠が昨年十二月に設立した。そしてもう一方は、パチンコ業界の取り締まり官庁であり監督官庁である警察庁だ。

丸紅・伊藤忠が偽造に強いPCシステムを売り物に、新しく参入しようとしたところ、なぜか頓挫。以来、今に至るまで八ヶ月近くも足踏み状態を余儀なくさせられている。この原因は、警察庁の介入だ。これが、今回疑われている構図である。以下、警察関係者の証言と、警察庁の文書回答を元に再現する。

騒ぎの始まりは、昨年十一月下旬にさかのぼる。その日、東京・虎ノ門にある商社担当記者クラブ「貿易記者会」で予定されていたある会見が、土壇場になってキャンセルされた。この会見で丸紅・伊藤忠側は、NASの設立を公表するはずだった。会社設立の記者会見といえば、手はずが全て完璧に整った上で最後に開くのが常識だ。結局、丸紅は長野副社長名で記者クラブに「謝罪文」を出すという羽目に。いかに異常な事態だったかが分かる。

「技術的な面で対応しなければならない面が出てきたので」(丸紅広報部)。これが表向きのキャンセルの理由だ。約一カ月後にNASは発足したが、そのまま現在に至るまで「立ち上げ時期は未定」(同)として、未だに市場に参入することができない。

一体、何があったのか。関係者の証言はこうだ。
商社側が警察庁にNASの設立と記者会見の日取りを通告してきたのは、会見の数週間前。その時はどうぞ、と返事をした。が、直前になって態度を変え、次のように伝えた。
「まだシステムの安全性について理解していないので、今の段階ではNASのPCシステムを『推薦』できるかどうかわからない。今の段階では、記者会見はやめてはどうか」

技術的な欠陥のため、という公式説明を否定する証言がある。今年に入って、商社側はある監査法人に自社のPCシステムをシステム監査するよう依頼。「厳重なセキュリティ対策が施されている」というお墨付きの結果が出た。この内容は警察庁にも報告されている、というのだ。

警察庁はその後も様々な注文を商社側につけている。
一例を挙げよう。もともとNASのPCは、発行されたパチンコ店でしかカードが使えない方式を計画していた。これを「ハウスカード方式」と言う。

が、警察庁は変更を促した。
「利便性を考え、他店でも使える共通カード方式にしてほしい」
が、よく考えるとこれは奇妙な話だ。犯罪防止や治安維持が目的ならともかく、私企業の商品に警察が「客に便利なようにしろ」と「指導」しているのだから。

結局、商社側はこの警察庁の指導に応じた。その結果、ワンセット四百万円前後だったPCシステムを、七百万円前後に値上げせざるをえなかった。先行三社より安価なシステムを売り物にしていたNASにとっては痛手である。

その後も警察庁のシステム設計への注文は続いた。
「システムについては理解したので、これから内部検討に入る」
そんな趣旨を警察庁が商社側にようやく伝えた時には、今年五月になっていた。システムについて「理解」するのに、半年もかかった勘定になる。同庁は、やりとりの詳細については沈黙している。

「警察庁としては(中略)日本アミューズメントシステムMのシステムについて、必要な事項を聴取した。聴取した段階での具体的な内容については、個別の事業の内容に関するものであり、回答は差し控えたい」

奇妙なことに、立ち往生で困っているはずの商社側までが頑なに沈黙を守っている。丸紅広報部は「システムが未完成なので」という表向きのコメントを出してそれ以上の取材を拒否。NASも、公式の取材を一切断っている。

「それは警察の『推薦』が必要だからですよ」
ある関係者はそう言う。
「もし警察の推薦を得ずにPCシステムを売り出しても、パチンコ店が買わないでしょう。入れようとしても、許認可を握る現場の警察署の機嫌を損ねていやがらせをされる」

パチンコ店は法律の厳しい規制を受ける。新規開店の営業許可はもちろん、台の入れ替えから照明の変更に至るまで「設備変更」として地元警察署への届けと承認、警察官の立ち会いが必要だ。警察の機嫌を損なって申請を店晒しにされて商売が遅れ、人件費や利子で損害が出る。パチンコ店経営者にとってはこれが何より怖い。

この「推薦」に、法的根拠はあるのか。警察庁の見解はこうだ。
「プリペイドカード(中略)事業にあたって警察庁の許認可や『推薦』を必要とするものでないことはいうまでもない」
つまり公式には法的根拠のない「指導」ということらしい。

この足踏み状態、商社側が望んでそうしているわけではない。丸紅のある首脳は、周囲に次のように漏らしている。
「ウチとしてはやりたいんですが…。あっちの話ですから」
あっちって、警察でしょう?
「そうですよ」

さらに言えば、パチンコ業界は新しいカード会社の登場を歓迎しているのだ。例えば、博多威彦・日本遊技関連事業協会常務理事は次のように言う。
「色々な種類のPCシステムが登場するのは結構なことだ。結果から言えば、システムが現行の一種類しかないから偽造被害が広がったともいえる。セキュリティの面でも競争すればいい」

また、あるパチンコ業界関係者はこう話す。
「現行のPC会社は殿様商売です。一万・五千円カードの使用停止も、パチンコ店経営者には何の相談もなかった。常に上から突然言ってくる。行政がバックに付いているからでしょう」

この関係者も、NASの立ち往生は不可解だ、と言う。
「競争原理でシステム使用料が安くなってくれれば、こちらは大歓迎なんです。先行社が入れるな、と邪魔しているんじゃないか」

例えNASがめでたく市場に参入できる運びとなっても、まだ難題が待ちかまえている。警察の外郭団体の財団法人「保安電子通信技術協会」(保通協、東京都江東区)の検査を通らなければならないのだ。先行三社のカード読み取り機(CR)を搭載したパチンコ台で、検査を終えて市場に出ているものは三十から四十種類あると見られる。台がまったく同じでも、CRをNAS方式に積み替えた場合は検査をやり直すように。警察庁はそう指導している。

もともと保通協は、パチンコ台が過度の「射幸心」を煽らないよう、出玉率などを検査する業務を担当している。いったん検査を通った台がなぜCRが違うだけで再検査を受けなければならないのか、奇妙といえば奇妙だ。警察庁の説明はこうだ。
「遊技機本体の動作に影響を及ぼすものでないことを試験で確認する必要があり(中略)、CR機ではユニットと遊技機本体を一体のものとして型式の検定を行っていることから、同社のユニット組み合わせた遊技機についても、改めて検定が必要である」

保通協は国家公安委員会の指定検査機関だ。会長の山本鎮彦氏は元警察庁長官。同庁通信局長、保安部長経験者が理事に名を連ねる。

では、なぜ警察庁はNASに足止めを食わせるのか。その理由ははっきりしない。
ただ、NASが参入すると、PC市場に大変化が起きるのは間違いない。そう推測できる根拠が三点ある。

@先行三社の市場独占が崩れる。三社は、PCがスタートした当初から地域別に住み分けながらそれぞれの市場を独占してきた。例えば三菱系の「日本レジャーカードシステム」(LEC)は東日本。住友系の「日本ゲームカード」は西日本。三井系は中部地区という具合だ。

ANASのシステムは先行三社より偽造に強い。先行三社は、NTTが開発した共通のシステムを使っている。元はテレホンカードの技術だ。カードそのものをコピーすることに成功すれば、それで玉を出して現金化されてしまう。これが六百三十億円もの偽造被害を出した原因の一つだ。
NASのシステムでは、カードをいくら偽造しても、不正使用は不可能に近い。ホストコンピュータがカード個別のID番号とその点数残高を覚えていて、使用のたびにカード上の情報と照合するから、カード上の磁気データをいじって偽造や点数の水増しを施しても、はねてしまう。

BNASのシステムは先行三社に比べて一〇から二〇%安い。カード一枚の値段も先行社十三円に対して六円前後と安価だ。

「NASのシステム内容は詳しくは分からないが、変造がまったく出ず、しかもシステムが安いのなら、こちらにとって脅威になる」(長堀敏夫・LEC広報室長)。
つまり、先行三社にとってNASは手強い商売敵になりそうなのだ。

PC偽造で約六百三十億円の被害を被った先行社は、今年秋をめどにセキュリティを強化する、と宣言している。それ以前にライバル社が参入するのはあまり有り難い話ではなかろう。

ちなみに、先行三社はいずれも警察庁管区警察局長などを勤めた警察キャリア官僚OBを役員や顧問として迎えている。また、三菱系のLECの場合「たいよう共済」が第三位の株主(八・八%)。顧客のほとんどが現役・退職警察官の損害保険代理会社だ。三菱商事(三六・七%)、NTTデータ通信(一九・六%)に次ぐ主要株主だ。PC導入のとき、反対する業界を警察庁が押し切り、PC会社が設立された経緯を知るパチンコ業界の目には、先行三社は警察の「身内」と映る。一方、NASの役員には今のところ警察OBはいない。

(AERA 96.07.15)





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