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テレビ世代のクリントン大統領はテレビ対策の達人。自分がどう見えるかちゃんと知って動いている



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これでは共和党と同じ・クリントン大統領
盛り上がらない大統領選挙をもっとつまらなくしたのが、クリントン大統領の「共和党すりより作戦」。共和党はお株を奪われ、争点ナッシング状態。


「今年の大統領選挙は共和党候補が二人いるみたいだね」
ワシントンで、議会関係者がそんなジョークを言っていた。選挙が近づくにつれ、クリントン大統領は共和党のお株を奪う政策を次々に打ち出している。おかげで争点が消え、以前から盛り上がりに欠ける大統領選挙がより一層つまらなくなった。

民主・共和両党を仰天させたのは、共和党下院議員が起案した福祉改革法案にクリントン大統領が調印したことだ。
「貧乏でも、政府からの援助に頼らずもっと自分で働け」。この法律の核心を簡単に言うと、そうなる。生活保護の受給期限を設定(五年)、不法移民や麻薬犯罪者から受給資格を剥奪。一九三○年代、大恐慌時代に弱者救済目的で生まれたニューディール政策以来の福祉政策を路線変更することになる。「政府の援助による社会的不平等の是正」という民主党の党是を捨てる大転換だ。「小さな政府」「自助努力の尊重」という共和党の党是にむしろ近い。

予兆はあった。今年始めの一般教書演説である。
「大きな政府の時代は終わった」
そう演説するクリントン大統領を前に、ある共和党下院議員が嘆きのコメントをしていた。
「こりゃ民主党の辞書に載っている言葉じゃない。共和党員の演説を聞いているみたいだ」

最大の被害者は、もちろんライバル共和党の大統領候補ボブ・ドール氏である。
ドール陣営はクリントン大統領が再度拒否権を発動すると見ていた。九二年の選挙で大統領は「現行の福祉政策は見直す」と公約している。「公約違反」と批判して争点の中心に据える作戦だったのに、大空振りである。

しかも大統領が福祉改革法案に調印する意向を表明したのは、七月三十一日。ドール氏が一五%の一律所得税減税を発表する(八月五日)直前だ。気の毒なことに、これほど大きな政策を出されてはドール氏の目玉政策もすっかり影が薄い。発表直後の世論調査では、実に六七%が「ドール氏の減税策は大統領当選が目当て」と答えている(タイム誌・CNN調べ)。

クリントン大統領は、共和党の福祉改革法案に拒否権を二回(九五年十二月と九六年一月)発動している。民主党内部には「努力は尽くした」という言い訳ができる。政敵の共和党には「公約は守った」と言える。さらに福祉予算の削減で、六年間に五百五十億ドルの削減が見込めるから、長年懸案になっている財政赤字の改善にも一役買える。クリントン陣営の見事な作戦勝ちである。

クリントン大統領の「共和党すりより作戦」は福祉政策だけではない。例えば、犯罪対策。
計十万人の警官を増員するため、八十八億ドルの予算を投じるCOPSプログラム。より強力な捜査権限を認めるテロ対策法。性犯罪の前科者が引っ越しする際、移転先の市町村に通知を出す法案にも調印した。
かつては被疑者の人権を尊重することを柱とした民主党の犯罪対策政策からすれば、考えられない大転換である。

また、娯楽産業に「麻薬や暴力描写が過度にならないよう」演説したかと思えば、インターネット上のポルノを規制する法も成立させた。これもかつては共和党最保守層やキリスト教右翼が口を酸っぱくして主張していた政策だ。クリントン政権は、言論の自由より犯罪対策を優先させた格好だ。

かくして、今のところ世論調査などを見る限りクリントン政権は順風満帆の勢いである。

もちろん波乱要因はある。最大の要素はクリントン大統領にまつわるスキャンダルだ。が「ホワイトウォーター疑惑」では捜査当局は手詰まり状態らしい。
八月二十日、八○年代にクリントン夫妻と開発会社の共同経営者だったスーザン・マクドューガル氏に二年の実刑判決が出た。この時、同氏側は「クリントン夫妻を訴追できる情報を提供すれば執行猶予になるよう取り計らう」と司法当局が持ちかけてきた経緯を暴露。が、同氏は申し出を拒絶した、と言っている。 経済が好調なのもクリントン政権にとっては幸運だ。米国では、レイオフや賃下げで経済が有権者の生活に直結するからだ。湾岸戦争で勝利したブッシュ大統領が九二年に再選を果たせなかったのも、悪化する経済に歯止めをかけられなかったからだ。
が、いま米国の景気拡大は戦後最長の六年目。失業率は七・三%(就任時)から五・三%(今年六月)に好転した。戦後、在任中に失業率が低下した大統領は、ただ一例を除いて再選、または後継者が当選している。
後述するように、米国の有権者の六割は「個人的な資質」より「政策」を投票の基準に考えている。クリントンが多少後暗くても、政策が順調なら現状維持でいい、というのが正直な気持ちだろう。

現職が不安要因があまりに少なくて、勝負が見えている選挙ほどつまらないものはない。

加えて「役者」がいないのも今年の大統領選挙をつまらなくしている原因だ。後述するように共和党のボブ・ドール氏はワシントン生活三十五年の古株だ。副大統領候補(七六年)、二回の共和党大統領候補(八○、八八年)にも出馬しているから、有権者に期待を抱かせるような新鮮味がない。
アーカンソー州知事だったクリントン。カルフォルニア知事だったレーガン。ジョージア州知事だったカーター。近年現職を破った大統領候補を振り返ると、中央政界とは無縁の新顔ばかりである。

それにしても、ドール氏はなぜこんな苦しい戦いに打って出る気になったのだろう。
ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者の近著「The Choice」によると、ドール氏が大統領選挙への出馬を考え始めたのは、九四年十二月である。 これは、同年十一月の中間選挙で共和党が大勝し、上下院の過半数を奪回した直後だ。同年十二月末時点での支持率調査では、ドール氏(四八%)がクリントン大統領(三八%)を大きく引き離していた(ニューズウィーク誌調べ)。クリントン政権の人気は最悪。ドール氏が「勝てる」と踏んだのも無理はない。

しかし、その後情勢は完全に逆転した。原因は九五年末に起きた連邦政府機関の閉鎖事件だ。中間選挙で当選した共和党新人議員らがクリントン政権の予算案に頑強に抵抗、予算執行ができなくなった騒動である。これで共和党は大顰蹙を買い、クリントン政権は人気を取り戻す。

共和党は年功序列を重んじる、かつての自民党に似た政党だ。州知事や上下院議員として年数を積まないと上に上がれない。特にドール陣営は、今回の大統領予備選だけで二十億ドルを使ったと言われる。全国レベルで資金を集めるためには、できるだけ多くの知事や議員を傘下に納めないと、とても勝ち残れない。

「だから、ドールのようにスピーチが下手で国民に人気がなくても、党内で年功を積めば大統領候補になれてしまう。それが共和党最大の問題」
議会専門誌『コングレッショナル・クオータリー』政治デスクのロナルド・エルビン氏はそう指摘する。このままドール氏が大敗すれば、二○○○年の政権奪回に向けて共和党の年功序列構造を改革する動きが噴き出すのは必至だ。

(AERA96.9.9)




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