![]() 富裕黒人層が住むロサンゼルスの住宅街「ラファイエット・スクエア」の住民たち。 |
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黒人層も富裕になり保守化 黒人などマイノリティは低所得層で革新寄り、という図式が崩れてきた。黒人保守派の登場だ。黒人の所得・教育は向上。革新側の政策は失敗。アメリカでは政治地図が根本から変わり始めている |
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予備選挙で共和党大統領候補の座をボブ・ドール上院議員(当時)と争った人々の中に、黒人候補者がいたのをご存知だろうか。アラン・キーズ氏46という。私が氏に出会ったのは、今年二月。厳冬のニューハンプシャー州で共和党予備選を取材していた時だ。 それは、共和党支持層の中でも最保守の宗教右翼「キリスト教徒連合」の集会だった。演壇に立ったキーズ氏は、圧倒的な弁舌を振るった。中絶反対。伝統的な家族への回帰。手を振り上げ声を張り上げ、保守主義を滔々と説く。初めは訝しげだった白人ばかりの聴衆が、二十分後には割れるような拍手と歓声を送っていた。 貧困層を抱える黒人層といえば、福祉政策堅持を唱える民主党革新路線のもっとも忠実な支持層。保守的な白人層を支持母体とする共和党と黒人とは、相容れない。キーズ氏は、そんな私の思い込みを吹き飛ばした。 会ってみると、氏は物静かな紳士だった。ハーバード大学で博士号を取得、国務省の外交官を十年勤めたインテリである。ブッシュ政権では国務次官補の職にあった。売名目当ての泡沫候補でなかったことは後に証明される。大富豪スティーブ・フォーブス氏やフィル・グラム上院議員といった大物候補が次々に脱落した後も、氏は粘り続け、ちゃんと八月の党全国大会に約二十人の代議員を送り込むにまで至ったからだ。 bどうして黒人のあなたが保守主義を唱えるのですか? 「革新側のアプローチが何の役にも立たなかったからですよ。生活保護などの福祉政策は問題を解決するどころか新たな問題を生んでばかり。ここ三十年の政府のリベラル傾向を見直す時期です」 b黒人層は福祉政策の受益者ではなかったのですか? 「福祉政策は貧困層の家庭の崩壊の第一原因です。今日の黒人社会を見れば、家庭の崩壊から生じた危機は絶望的なほど深刻だ。家庭構造を立て直そう、というメッセージほど黒人社会に必要なものはない」 米国の生活保護は母子家庭を優遇する制度だ。未婚でいる方が働かなくても収入が得られるから、貧困層ほど父親不在が広がる。勤労意欲を損なう。それが少年非行や犯罪の呼び水になっている。そんな悪循環の現実が、氏の福祉制度批判の背景にはある。 保守主義に傾く黒人政治家はキーズ氏一人ではない。カルフォルニア州で人種優遇政策撤廃の住民投票運動を始めたワード・コナリー氏(アエラ九六年三月二十五日号)。九四年の中間選挙では、二十四人の黒人候補が共和党から下院に立候補。一人が当選した。一時はドール氏の副大統領候補にと騒がれ、党大会でも注目の的だったコリン・パウエル元統合幕僚議長も、そんな傾向を象徴する人物だ。彼らの主張に共通するのは、民主党の政策が、黒人層が抱える問題の解決にならなかった、という行き詰まり感である。 共和党側もこの好機を逃さなかった。支持層を広げるべく、黒人層に様々なアプローチを仕掛けたのだ。例えば、共和党全国委員会は九四年の中間選挙で黒人候補者に重点的に資金を提供。共和党のスターであるグラム上院議員やドール氏の副大統領候補のジャック・ケンプ氏が選挙区入りして資金集めを手伝った。 「四年前なら、僕にテレビ出演の声は絶対に掛からなかった。それがここ数年、特に若い世代からの反応も良くなってきた。黒人も変わりつつあるんだ」 ワシントンの連邦議会に近いオフィスで、エドモンド・ピーターソン氏47は満足そうだった。レーガン、サッチャーなど保守系政治家の写真が壁を埋めるように並んでいる。キーズ氏の選挙スタッフだった彼はいま「プロジェクト21」という保守系黒人のための政治団体を率いる。 こちらも、ハーバード大の修士号を持つインテリだ。中絶や政府の市場介入に反対し、減税と小さな政府を主張する。また、ハリウッド映画やラップ音楽を「病気」と攻撃。そんな保守主義を、テレビや著作で説いて回る論客である。 「保守主義への支持は根強い。十一月の大統領選挙で共和党のドールが負けても、保守主義が人気を失うことはないでしょう」 黒人層に保守化をもたらした原因は何か。 まず第一に、一九六〇年代以後、黒人層の収入は飛躍的に上がった(下グラフ参照)。働き盛りの主要所得者(三十五-四十四歳)を持つ既婚家庭に限って見ると、年間平均所得は二十三年間に約二万七千ドルから四万三千ウに増加。白人家庭との格差は縮まっている。都市部では、だいたい年収三万五千ドルあれば中産階級に分類される。つまり、黒人中産階級が大量に生まれたのだ。 背景にあるのは、黒人層の学歴が上がったことだ。差別撤廃を目的に六〇年代に導入されたアファーマティブ・アクションの力が大きい。七〇年に六・七%にすぎなかった黒人層の大学進学率(人口に占める大学在学者の比率)は、九〇年にはちょうど二倍の一三・四%に上がっている。医者、弁護士、教師、エンジニア、官僚。様々な専門職に黒人層が進出するドアを開いた。 その結果、福祉政策の最大の受益者グループは今では黒人ではなく、白人層になった。生活保護プログラム(AFDC)受益者四百九十万人のうち、三九%が白人(ラテン系を除く)。黒人はそれより低い三七%である。 こうして生まれた黒人中産階級とは、どんな価値観を持つ人々なのか。私は彼らが数多く住むロサンゼルスを訪ねることにした。 結論を先に言う。統計を見ると、黒人層の中で「共和党支持」と答えるのは約一割。八割は今でも民主党支持である。ところが、その八割の中でも民主党伝統のリベラル路線に背を向け、保守寄りの政策を支持する「中道派」が急速に広まっているのだ。 私が訪ねた住宅街は「ラファイエット・スクエア」という。二百三十五戸のうち八五%が黒人家庭、という街だ。 足を踏み入れたとたんに、町並みの美しさに溜息が出た。広い緑の芝生の向こうに立ち並ぶ白亜の豪邸。ベンツ、ポルシェ、BMW。花が咲き乱れる家の前に高級車が並んでいる。 寝室が六部屋ある二階建ての家が三十万ドル前後、と聞いた。弁護士、医者、大学教授、企業経営者。多くの家が家政婦を雇い、犯罪の多い地元の公立学校を避けて私立学校に子弟を通わせている。かつては歌手のナット・キング・コールやハリー・ベラフォンテが住んでいたそうだ。正確には分からないが、こんな黒人中産階級の街が、市内に十カ所前後あるらしい。 「年を取るにつれて、もっと自助努力に励むべきだという思いが強まったのは事実ですね」 大理石の暖炉のある居間で、ロナルド・ジョンソンさん48はそう語った。ロス市の職業教育機関で働く管理職だ。 「生活保護は長く浸かっていると癖になってしまう。仕事のために自分を磨くより政府の小切手が郵送されるのを待っているなんてあまりに破滅的だ」 昨年、ここの住民は一本だけ残してこの地域に入る道路数本をゲートやブロックで封鎖した。交通事故と不審者の侵入を防ぐため、という。市会議員を仲介に、市当局に道路封鎖を許可するよう働きかけた結果。社会的地位が上がり、六十年代リベラルのような過激な意志表示をしなくても自分たちの要求が実現するようになった、とジョンソンさんは振り返る。 政府に頼らなくても、黒人グループの経済力や政治力だけで十分やっていける自信が付いた。もっと自分たちで解決しよう。ジョンソンさんがいう「自助努力」にはそんな意味が含まれる。 「子どもが多くて父親がいない方がカネがもらえるシステムだから、福祉は家庭をすっかり破壊してしまった。しかも、いったんはまると抜け出すのが難しくて親子何代も福祉漬けが続く。現在の制度を何とかしなければならない、というのはその通りだよ」 警察官として二十年間ロスの貧困地域を見てきたロナルド・ファーウェルさん60はそう言う。会社経営に転じて成功、八一年にラファイエット・スクエアに越してきた。 私がここを訪ねたのは、クリントン大統領が生活保護などの福祉政策を約六十年ぶりに大改革する法案に署名することを表明した直後だった。「政府の援助で社会的不平等を是正する」という民主党の党是を捨て「自助努力」を尊重する共和党に近い保守路線に転換する一大事件だった。 「私は民主党員だが、クリントンの判断は支持するよ。生活保護にべったり依存する人があまりに多すぎる。今の福祉政策は改革が必要だ」 白やピンクの花が咲き乱れる庭の東屋のベンチに腰を下ろし、ジョン・ハロルドさん66はそう語った。公立学校の教師として長年働き、定年退職。白亜の家にはもう三十年住んでいる。 残念ながら、とハロルドさんは続ける。黒人の中にも持てる者と持たざる者が分かれてきた。それによって政治的、社会的な意見も変わってくる。彼はそう言う。 アファーマティブ・アクションはまだまだ必要、という点では革新寄り。が、ゲイの法的結婚を認めるには抵抗がある、福祉制度は改革せよ、という点では保守寄り。つまり、政党ではなく政策によって支持を決める「中道派」「中間層」だ。 「政党は問題ではないのです。重要なのは政策です」 大学でアフリカン・アメリカ学の教授を務めるエレーン・ギルズさんはそう言う。私の祖先はかつては共和党支持でした、と彼女は例えて言う。奴隷解放を果たしたリンカーンが共和党だったから、なのだそうだ。 「私たちの役に立つ政策を出す政治家だから支持するんです。役に立つ政策なら、クリントンでなくてもいいし、別に共和党だってかまわない」 そう言う彼女の考え方は「中間層」の発想そのものだ。 「経済状態が上がれば、政府の経済保護に頼る必要はなくなる。そんなグループは『自分で努力すれば道は開ける』と信じるようになる。一方、貧困に留まる層はそうは考えない。いまロスの黒人社会は、二つに分裂している」 ロスの貧困地域で企業誘致などの活動をする市民団体「RLA」代表のリンダ・グリエゴさんはそう指摘する。 「いま、共和党にも民主党にもフィットしないグループが増えています」 共和党の政策のある部分は好き。が、一方で民主党の政策のある部分も好き。だから例えば、減税には賛成する一方で、政府の医療保険制度は拡充すべし、とも言う。ある意味で、両立しえない政治的要求をする。政策次第で民主党にも共和党にも投票する「浮動層」でもある。「中間層」はそんな特徴を持つ。そうした層が、十一月の大統領選挙でも勝敗を決める最大多数なのだ。 かつては革新の支持基盤だった黒人層でも、これだけ保守・中道路線に傾斜した。となると、白人層は推して知るべし、である。福祉改革や犯罪対策でクリントン大統領が保守路線に大きく舵を切っているのは、こうした中間層の支持を得られると踏んだからに他ならない。 (AERA96.9.16) |
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