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■SLAPPとは何か■
=「批判者封じを目的に起こされるいやがらせ訴訟。強者が弱者を相手に民事訴訟を起こす形が多い」

 

SLAPP (スラップ)

(Strategic Lawsuit Against Public Participation)


(出典:”Law Encyclopedia,” Thomson and Gale社。烏賀陽弘道訳)

 

「批判や反対をやめさせることを目的に、裁判コストの重荷を負わせることで批判者を威圧し黙らせるために起こされる民事訴訟。SLAPPを起こす側は、必ずしも裁判に勝つことを目的としていない。裁判を起こされた側が恐怖や威圧、裁判費用の負担、あるいは単純に疲弊してしまうことで屈服し、批判や反対をやめてくれればそれで達成される。また周囲の人々も怖がって議論に参加しないようになってしまう」(この部分のみ出典はWikipedia)

「公に意見を表明したり、請願・陳情や提訴を起こしたり、政府・自治体の対応を求めて動いたりした人々を黙らせ、威圧し、苦痛を与えることを目的として起こされる報復的な民事訴訟のこと」。

Strategic Lawsuit Against Public Participation(直訳:市民の関与を排除するための訴訟戦術)はSLAPPという略語で有名である。SLAPPは様々な訴因、例えば名誉毀損、誹謗中傷、業務妨害、共謀などで提訴される。もともとこの言葉は、1984年にこうした形態の訴訟の研究を始めたデンバー大学のジョージ・W・プリング教授とペネロペ・キャナン教授が作り出した造語だ。当初、両教授はSLAPPの条件として次の四つの規準を挙げていた。

(1)政府・自治体などが権力を発動するよう働きかけること =(注)裁判所への提訴や捜査機関への告発など
(2)そうした働きかけが民事訴訟の形を取ること
(3)政府・自治体・企業ではない個人や団体を被告として提訴されること
(4)公共の利益や社会的意義にかかわる重要な問題を争点としていること。

 典型的なSLAPPでは「ターゲット」(プリング・キャナン教授の用語)にされるのは個人または市民団体、ジャーナリストであり、彼らが訴訟の「被告」にされる。これらの個人や市民団体は、ただ単に憲法で保証された権利を行使する動き(デモ、ビラ配布、新聞への寄稿、記事の執筆など)をしただけD「不法行為の疑いがある」として「ファイラー(filer)」=原告に民事訴訟を起こされる。SLAPPが標的にする社会問題は多岐にわたる。特に多いのは不動産開発や公人の行動、環境破壊や公害・汚染、そのほか反対の強い土地利用などについて、公に意見を表明した個人や市民団体が標的にされる。消費者や労働者、女性、少数派(人種、性的マイノリティなど)の権利のために公的に働く個人や団体が狙われることも多い。
 これまでの例では、SLAPPを起こされた被告は合法的としか見えないような行為によって訴訟を起こされている。例えば、請願のための署名を集めて回るとか、地元の新聞に記事を書く、あるいは投書をする。パブリックな集会で発言する。違法行為を報道したり、通報したりする。合法的なデモに参加する、などである。

 SLAPPの一例には次のような訴訟がある。米国コロラド州のある環境保護団体が、開発事業に反対する運動を展開していた。その結果、その環境団体は開発業者に四千万ドルの損害賠償訴訟を起こされた。この訴訟で原告の開発業者は保護団体が「共謀罪」と「訴訟手続きの乱用」で賠償責任があると主張した(ロックポート・コーポレーション対プロテクト・アワ・マウンテン・エンバイアメント事件。事件番号81CV973。コロラド州ジェファーソン郡地方裁判所。1981年)。この訴訟は数年にわたって長引き、環境保護団体は多大な時間と金銭の浪費を強いられ、とうとう活動停止に追い込まれた。開発事業そのものもストップしたが、環境保護団体のメンバーの多くが、こうした司法を利用した報復行為を恐れて、コミュニティ活動に一切かかわりたくないと考えるようになった。

 他のSLAPPの標的にされた例を挙げる。学校の保護者懇談会で、通学バスの安全性に懸念を表明した親たちのグループは、バス会社から名誉毀損で68万ドルの訴訟を起こされた。バーの営業免許の更新に反対した近隣住民たちが、このバーの経営者に800万ドルの名誉毀損訴訟を起こされた例もある。

 SLAPPは、原告の敗訴で終わることが多い。つまり合衆国憲法で保証された権利の侵害として裁判所に棄却される(その法的根拠は被告の活動が合衆国憲法修正第一条の「請願条項」である)。この条項が「社会不満の原因を是正するよう政府に請願することは合衆国国民が持つ権利である」と保証しているからだ。ところが、SLAPPがすみやかに棄却されない訴訟では、被告とされた人々の裁判上の負担(時間と金銭の両面)そのものが往々にして加罰として機能してしまい、公的に発言することを抑止してしまう。SLAPP攻撃に遭った人(SLAPPed=英語では『ビンタを食らった人』と同じ発音:訳者注)は、訴訟を起こされたことで沈黙を強いられ、公共の問題などかかわらない方が身のためだと感じるようになる。これこそがSLAPP訴訟を起こす側の狙である。こうして、SLAPPを起こす原告側はたいてい裁判では負けるが、利害の対立する相手を沈黙させるという目的は達成できる。

 ここまで述べてきたような理由によって、SLAPPは法律を脅迫目的で利用する典型例であり、市民が公的問題にかかわることを阻害する脅威となることは、司法当局には広く認識されている。公的に議論されるべき問題を「私的活動の範囲」と矮小化し、世論や市民運動が喚起されるべき問題に冷や水を浴びせる悪影響があるという指摘も数多く出ている。

 アメリカにおけるSLAPPの歴史は古く、政府内の汚職や腐敗に市民が異議を唱えて訴訟を起こされた建国初期の時代にまでさかのぼる。しかし、裁判所はこのような訴訟は棄却するのが普通であり、1960年代から1970年代に入るまでまでSLAPPが広く利用されることはなかった。1960年代から1970年代になってSLAPPが増えるのは、環境問題からマイノリティ問題に至るまで、数々の社会問題について政治運動が津波のように押し寄せたからである。誹謗・名誉毀損や業務妨害を理由とする訴訟が、利害関係者、特に企業など経済上の利害関係者から数多く起こされるようになった。SLAPPがアメリカの政治システムへの市民参加に対する深刻な妨害であるという指摘が数多くなされるようになったのは1980年代から1990年代にかけてである。

 SLAPPの増加に対する市民や政府・自治体の反応は様々だ。SLAPPのターゲットにされた被告は、反訴することが多い(これをSLAPPバック=ビンタを返す、と同じ発音:訳者注=という)。訴因はSLAPPの原告と同じ、不当起訴、訴訟権の濫用、名誉毀損、業務妨害などである。こうした反訴を起こした側は法廷では勝利を収める例が多い。陪審員から多額の和解金の評決を引き出すことも数多い。「反訴賛成派」は、反訴はSLAPPを抑止するために必要だと論じている。

 審理の迅速化とSLAPP棄却を支持する合衆国最高裁判所判例も増えている。SLAPP初期に確立した規準を用いて「コロンビア市対オムニ・アウトドア・アドベタイジング社事件」で最高裁は次のような判断を示した。憲法修正第一条の請願条項は「意志や目的にかかわらず、公共体を動かそうとする共同行為を保証している」。この判決で最高裁はSLAPPはすべての訴訟において棄却されるべきである。例外は「ターゲット」の活動が、政府・自治体を有利に動かそうとする目標だけを目指しているとはいえない場合に限られる。

 州ごとのSLAPPへの対応を見ると、SLAPPを禁止し、市民が公共の問題にかかわる運動に参加する権利を保護する州法が多数制定されている。ワシントン州は反SLAPP法を制定した最初の州である(1989年)。1996年までには、8州(カルフォルニア、デラウエア、マサチューセッツ、ミネソタ、ネブラスカ、ネバダ、ニューヨーク、ロードアイランド)が同様の州法を可決した。例えば1994年の「ミネソタ市民参加法案」では、SLAPP原告が「被告の活動は公共の利益にかなう政策実施を目指していない」と立証できない限り、裁判所にSLAPPをすべて棄却するよう義務づけた。この法律によって、立証責任はSLAPP原告に課されるようになった。また、SLAPP被告は、弁護士費用を募金するといった法的コストや損害から解放された。

【その他のアメリカのSLAPP例】

  1. カルフォルニア州

 カルフォルニア州は、1992年に州民事訴訟法425条16項でSLAPPを目的とした訴訟の濫用を禁じる成文法を制定した。この法律では、請願権や言論の自由の範囲内の行為に対して起こされた訴訟に対して、被告が反訴を起こすための特別動議を定めている。この成文法は、次のようにはっきりと明文化している。あらゆる議会・首長・司法機関はじめ、法律に則って行われるあらゆる公的手続きが議題としている問題に関係のある内容であれば、すべての出版物や公的発言に適用される。一方、訴因となっている出版物や公的発言が直接公共体に向けられたものである義務はないとも定めている。また、公共の利益に関する問題であれば、いかなる公的空間での発言や請願、公的発言に類する行為にも適用される。
 反SLAPP動議が提出されると、SLAPPを起こした原告はその請求内容の変更ができなくなり、すべての証拠開示手続きが止まる。動議が却下された場合は、控訴手続を取れば、第一審裁判所で争われている訴訟理由のまま手続きが即刻停止する。反SLAPP動議(続く控訴でも同じ)を勝ち取った被告側は、弁護士費用のかなりの部分を裁定のうえ支払ってもらう権利が生じる。
 カルフォルニア州民事訴訟法425条17項は、上記の反SLAPP条項の濫用を防ぐべく修正を加えた。03年9月6日に可決された同法では、一定の公共の利益にかかわる訴訟や集団訴訟、ある種の商業目的の行動や発言に関する問題について、反SLAPP動議を使うことを禁じた。05年10月6日に可決された425条18項は、SLAPPの被害者に、SLAPP訴訟が棄却されたあと、相手方とその弁護士を反訴(SLAPP back)して損害を回復できるよう手続きを定めた。

  1. 他の州など

 カルフォルニアの他には、少なくとも24の州と1自治区がSLAPPから被害者を守る法的制度を設けている。アーカンソー、デラウエア、フロリダ、ジョージア、グアム(自治区)、ハワイ、インディアナ、ルイジアナ、メイン、メリーランド、マサチューセッツ、ミネソタ、ミズーリ、ネブラスカ、ネバダ、ニューメキシコ、ニューヨーク、オクラホマ、オレゴン、ペンシルバニア、ロード・アイランド、テネシー、ユタ、ワシントン、ウエスト・バージニアの各州(アルファベット順)である。

  1. 連邦政府

 アメリカ合衆国連邦法にSLAPPに関する成文法に相当するものはない。もっとも近い法的救済措置としては、反トラスト連邦法における「ノエル・ペニントン・ドクトリン」であろう。キャナン・プリング両教授によれば、こうした状況が生まれた原因は、州法と連邦法で民事提訴の手続きが異なることである。

 カルフォルニアをはじめほとんどの州では、民事提訴の手続きが法的に定められ、請求内容は事実に基づいた主張・論点を持ち、できるかぎり明確でなければならないことになっている。こうすることで、提訴する前にすでに自らの提訴がしっかりとした事実に基づいていることを証明する重荷を原告が負うので、反SLAPP動議が正当な訴訟を排除してしまうリスクを減らすことができるのだ。反対に連邦民事訴訟法では、提訴をしてその後から根拠となる事実を開示すればいいことになっているため、請求内容は「短く簡潔でいい」とされる。

【ヨーロッパ】


2005年2月、欧州人権裁判所は、イギリスでマクドナルド社が起こした名誉毀損訴訟について、被告のヘレン・スティール氏とデビッド・モリス氏が公正な弁護を受けていないとの判決を下した。「マック名誉毀損(McLibel)事件」として有名になる(訳者注:ドキュメンタリー映画にもなった)この裁判で、両氏はリーフレットの中でマクドナルド社の名誉を毀損したとして1994年に有罪判決を受けた。が、欧州人権裁判所は名誉毀損事件での被告は法的な手当てを受けられないため、欧州人権会議が定めた表現の自由の権利が侵害されたとの判断を示した。両氏は2万4000ポンドの損害賠償とその他のコストへの補償を認められた。

【ニュージーランド】


 ニュージーランドで注目に値する最初のSLAPPは1997年に起きた。「ネイティブ・フォレスト・アクション」という環境保護団体が、ニュージーランド・ウエストコースト州の原生林伐採に反対する運動を妨害するため、ティンバーランド・オン・ウエストコースト社(同国の国有企業)が起こした。さらに最近の例では、2004年にニュースウエブサイト「スクープ」が、ケンタッキー・フライドチキン社に、環境保護団体「グリーンピース」が運営する同社のパロディサイトにリンクを張ったことを理由にSLAPPを起こされている。

【カナダ】

 カナダで最初のSLAPPが起きたのは2006年である。トロント市港湾局(アメリカ連邦政府の省庁に似た組織)が、地元住民の環境保護運動団体「コミュニティ・エア」を相手取って提訴した。「コミュニティ・エア」はトロント市中央空港の拡張に反対する運動を展開していた。訴因は「同団体のウェブサイト上の書き込みによって、同公社およびその幹部の名誉が毀損された」という主張。訴訟は06年7月現在まだ継続中である。

(注:上記は、おそらく英米法系の民事訴訟法を持つ国の例しか集めていないものと思われる)

 (2009.3.8)

 





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